「血管」から、がんを治す
- 木戸屋 浩康
- KIDOYA Hiroyasu
- 医学部 教授(血管統御学)
Profile
福井県出身。2004年、金沢大学大学院自然科学研究科がん研究所(現、がん進展制御研究所)修了。2008年、大阪大学医学系研究科修了(医学博士)、大阪大学微生物病研究所にて日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、同研究所にて2009年助教。
2020年、同准教授。2019年、国立研究開発法人科学技術振興機構のさきがけ研究員を兼任。2021年より現職。
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血液泥棒
私は、血管の細胞が分泌する生理活性物質が、身体のさまざまな組織、器官に影響を及ぼす過程を解明することで、がんなど病気の治療に結びつけられないか、研究しています。
血管は、ふだんけがをしたときや月経の際など以外には、新しく伸びることはありません。一方、本来がんの病巣にはもともとは血管が無く、そのままでは血液が運ぶ酸素や栄養が不足するので、一定以上の大きさになることはできません。そこでがん細胞は、新しく血管を作って周囲から血液を盗んでくるのです。一度血管ができるとがんはどんどん大きくなり、そして体中に転移します。血管がむやみやたらに新生しないよう私たちの体には制御システムがあるのに、です。がんが、その制御システムをどのようにして突破しているか解明できれば、血管新生をくい止め、がんを治療することにつながります。いくつかの研究で血管新生を阻止する手段の候補が見つかっていますが、臨床では、まだまだ期待される治療効果は出ていません。しかし、がんの根本治療の基礎になると思っています。
血管は働きかける
血管は単なるパイプでなく、その内皮細胞から生理活性物質を分泌して周りの組織や器官にシグナルを出しています。そんな物質の一つに、Sfrp1というたんぱく質があり、がん組織に血管が新生された場合、その血管に由来するSfrp1ががん細胞の親玉である「がん幹細胞」を守るような働きをしていることが、動物実験などで分かってきました。がん幹細胞は抗がん剤が効きにくい、やっかいな存在です。
Sfrp1のような血管からの生理活性物質は他にもさまざまあって、ひっくるめて「アンジオ(血管)クライン(分泌)ファクター(因子)」と呼ばれています。血管はアンジオクラインファクターを介して、身体の恒常性維持に働いていることが明らかになりつつあります。この物質は、多くの疾患の発症?進展過程に関与しているはずです。アンジオクラインファクターをターゲットにした、これまでにない新しい医学研究分野を切り開いていきたいと思っています。
最近は体を動かすことにハマっていて、マラソン、ジムでのトレーニング、剣道を頑張っています。いつまでも活動的でカッコいい研究者でいられるように体を鍛えています。